感染放置せず啓発急げ

第三回目は、厚生労働省研究班の、ATL第一人者 渡辺俊樹さん です。

以下に記事を貼り付けます。

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研究者・患者代表の有識者会議座長 渡辺俊樹さん 感染放置せず啓発急げ
2010年03月13日 11:29

 −成人T細胞白血病(ATL)対策はなぜ立ち遅れたのか。
 
 渡辺さん 旧厚生省研究班が1990年度にまとめた報告書では、「全国一律の対策は必要ない」と提言された。九州・沖縄の「風土病」として扱われ、「放置しても消える」との認識が広まって研究体制が縮小され、予算も減った。報告書以降は20年も感染者の実態把握さえ行われてこなかった。

 ■都市部で感染者増

 −対策が取られなかった結果どうなったのか。

 渡辺さん 20年ぶりの感染実態調査では、感染者は108万人と、あまり減っていないことが分かった。実数はもっと多いかもしれない。全国の感染者に占める割合が九州・沖縄でダウン、その半面、関東と近畿の大都市圏でアップしていることが分かった。

 感染予防策を全国的に見ても、長崎県や鹿児島県以外では妊婦の抗体検査や母乳制限といった組織的対策は十分に取られていない。感染実態も不明だ。母子感染が放置されてきたと言える。性行為での感染(水平感染)も、実は広がっている可能性がある。

 −母子感染など予防策の改善ポイントは。

 渡辺さん 原因ウイルス(HTLV1)の感染は、母から子への母乳感染がほとんどなので、母乳制限が有効だ。人口移動などで感染者が広がっており、全国で妊婦抗体検査を実施しないと意味がない。

 併せて(1)母乳制限の十分な説明(2)妊婦の意思の尊重(3)カウンセリング態勢の充実−などを盛り込んだガイドラインを作成することが望ましい。性行為による感染は科学的な実態解明が不可欠。ATL発症リスクも再評価すべきだ。

 ■研究体制も不十分

 −ATLの啓発活動は。

 渡辺さん まったく不十分だ。医師会や行政の取り組みは、長崎県や鹿児島県を除くとほとんど何もされていない。開業医を対象にした、知識の普及と講習会開催などが求められる。一般市民にも正しい知識を持ってもらい、感染予防とともに、感染者や患者がいわれのない差別を受けたり、不安を抱いたりしないよう、一層の取り組みが必要だろう。

 −研究体制は十分か。

 渡辺さん 感染予防から治療まで総合的な取り組みが欠かせないのに、継続的な研究支援がない。国民の1%に相当する感染者がいるウイルス対策として決定的に不十分なのは明白だ。


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 ◆わたなべ・としき 北海道出身。東京大医学部卒業、同学部第4内科助手などを経て、東京大大学院新領域創成科学研究科教授。専門はウイルス腫瘍(しゅよう)学。ATL研究に28年携わる厚生労働省研究班の主要メンバー。HTLV1感染総合対策等に関する有識者会議座長。


=2010/03/13付 西日本新聞朝刊=

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