肝炎並みの対策急げ

第一回目は、
NPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」代表理事 菅付加代子さんの特集です。

以下に記事を貼り付けます。

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『肝炎並みの対策急げ』

2010年03月12日 11:08

 九州・沖縄だけで、少なくとも50万人の感染者がいるとされるウイルス性の成人T細胞白血病(ATL)とは、どんな病なのか。なぜ九州に感染者が多いのか。そして感染・発症予防や治療法の最前線はどこまできているのか−。患者団体や研究者に現状と課題を聞いた。

   ◇     ◇

 −ATLの患者団体は各地にあるのか。

 菅付さん うちの会員は賛助会員を含め約3千人。ATLの原因ウイルスHTLV1が脊(せき)髄(ずい)に入り込んで神経がまひするHTLV1関連脊髄症(HAM)の患者が多い。ATLは発症すると短期間で亡くなる方が多いため単独の患者団体は設立不可能で、会の参加者も大半が遺族だ。

 私自身もHAM患者。生活はかなり難儀だけれど、命はまだある。2003年に全国HAM患者友の会「アトムの会」をつくったあと、ATLで苦しむ方々のためにも活動を広げようと考えて、05年に「なくす会」を設立した。

 ■風土病との誤解も

 −国がATLを「風土病」ととらえ、対策を地方自治体に委ねてきたことをどう考えるか。

 菅付さん 1990年度に旧厚生省研究班が「全国一律の検査や対策は不要」と提言し、国は対策を放置してきた。あまりに重大な判断ミスだった。「発症率は低いから感染者だと知らない方が幸せ」という研究者がいたそうだが、勝手に決めないでほしい。感染が分かれば、生き方も変わる。国には国民の健康を守る義務があり、国民には知る権利がある。

 厚生労働省は「ATLは風土病」「寝た子を起こすな」との意識がすごく強い。対策を要望すると担当部署がなく、たらい回しにされたりした。それでも粘り強く交渉し、08年にHAMが国の難病研究の対象になり、20年ぶりのHTLV1感染実態調査や対策の有識者会議も実現した。ただ、エイズや肝炎と比べ対策予算はほとんどない。

 「C型肝炎ウイルスの感染者は7割前後が慢性化するが、ATLの発症率は5%だけ」というのが厚労省の言い分。ただ、その5%は死に直結する数字だ。こんな過酷な病気を、なぜ国は放っておくのかと腹が立つ。

 ■告知後の支援必要

 −感染者への偏見はあるのか。

 菅付さん 自身の感染を周囲に知られたくないという人は多い。情報を求めて会報を心待ちにしているけれど、会の名前が印刷された封筒は絶対に使わないでという人、「診断書にATLと書かないで」と言い残して亡くなる人もいる。風土病という誤解が根強いせいだ。

 −国に望むことは。

 菅付さん 京都大の研究者が作製した世界の新興・再興ウイルス感染症分布図を見てほしい。アフリカにエボラ出血熱、東南アジアには新型肺炎(SARS)などが記され、日本の位置にあるのは肝炎ウイルスなどではなくHTLV1。日本は先進国で唯一感染者が多い国だ。

 日本はエイズ対策には熱心だが、なぜHTLV1には目を向けないのか。政府が本腰を入れて取り組めば発展途上国の患者支援にもつながる。国家の問題ととらえ、議員立法エイズや肝炎並みの総合対策を始めてほしい。

 −具体的には。

 菅付さん 妊婦健診でのHTLV1抗体検査の無料化▽感染・発症予防ワクチンや治療薬の開発▽患者に対する福祉的支援、医療費助成−に加え、感染者へのフォローも課題だ。感染を告知された妊婦をまず襲うのが「赤ちゃんに感染させないか」との不安。次にわが子に母乳を与えられないという罪悪感。そして、ずっと後になって「自分も発症するかも」という恐怖心。告知の直後だけでなく生涯にわたるサポートが必要だ。

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 ◆すがつき・かよこ 鹿児島市在住、52歳。23―25歳のときの輸血が原因でHTLV1に感染。数年後から原因不明の痛みやしびれに悩まされ、33歳でHAMと診断された。歩行・排尿障害があり、20年ほど熟睡したことがないという。外出時は車いす

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 ▼HTLV1関連脊髄症(HAM) 成人T細胞白血病(ATL)の原因ウイルスであるHTLV1が、脊髄(せきずい)の中のリンパ球に感染して炎症を起こす病気。足がもつれて歩きにくくなり、進行するとつえや車いすが必要になる歩行障害、排尿困難や頻尿、残尿感、尿失禁といった排尿障害が主な症状。感染者の生涯発症率は0・25%とされる。患者数は全国に約1500人。

=2010/03/11付 西日本新聞朝刊=

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NPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」=http://www.minc.ne.jp/~nakusukai/index.html

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