人の移動の歴史映す病
第二回目は、
愛知県がんセンター研究所長 田島和雄さんの特集です。
以下に記事を貼り付けます。
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『人の移動の歴史映す病』
【ATLこの人に聞く 2】愛知県がんセンター研究所長 田島和雄さん
2010年03月12日 16:27
−成人T細胞白血病(ATL)の感染者が多い地域は。
田島さん 世界では中央アフリカからカリブ海沿岸諸国や南米に多い。日本は世界的にも感染者が多い国で、西日本なら九州南部や沖縄県。東北地方の三陸海岸や北海道の中部(アイヌ民族)も多発地域として知られている。
−なぜ地域的偏りが。
田島さん 人類の祖先はアフリカで誕生し、世界中に広がったとされる。その中でATLの原因ウイルスHTLV1感染への感受性の高い特定の部族や家系があったと考えられる。
■なぜ九州に多いか
−日本の場合は。
田島さん ウイルスはもともと新石器時代(およそ1万年前)に、縄文人の先祖が日本列島に持ってきたと考えられている。その後ウイルス感染に抵抗性を示す弥生人の先祖が朝鮮半島から渡来した。現在の日本人は弥生人と縄文人が混じりながら形成された。
縄文系の人々は弥生人に国土の中心部を明け渡す形で南北に押しやられた。だから九州南部や沿岸の半島部などの平和な地域に、その感受性を維持している人がいて、HTLV1が高頻度で見つかると考えられる。
−隣り合う町でも感染率が大きく違うのは。
田島さん 人の出入りがあるかどうか。ある九州の離島では一山隔てた隣町で一方はウイルスの陽性率が40%、一方は5%以下というケースがあった。出入りが多いと徐々にいろんな血筋が混じり薄められていく。長崎で言えば、島原半島周辺にはATLが少ない地域がある。おそらく江戸時代、島原の乱(1637―38年)の後、外部から流入した人が多いからではないかと考えられている。
■南米にも同一系統
−ATLは人類の移動の歴史も映していると。
田島さん 私は園田俊郎・鹿児島大名誉教授と世界のウイルス感染者の分布を調べてきた。南米・アンデスの先住民族の血液を調べると、日本人と同一系統のHTLV1感染者が多くいることが分かった。
彼らの祖先はコロンブスが新大陸を発見するはるか以前、アジア大陸から南米に渡った人々。日本人と同類のモンゴロイド一派の可能性が高いと考えている。
私たちが収集した主にモンゴロイド系の少数民族約3500人分の血液細胞は今、研究者に広く提供されている。人類がどう世界中に広がったのか。人類史を解き明かす手掛かりにもなると思っている。
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◆たじま・かずお 広島市出身。大阪大医学部卒。専門はがんの民族疫学。世界中で収集した血液細胞は現在「園田・田島コレクション」と称され、茨城県の理化学研究所バイオリソースセンターで保存。研究者への提供が始まっている。
=2010/03/12付 西日本新聞朝刊=
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